「野生のエルザ」という本を、知っていますか。映画化もされたので、見た人も多いと思います。まだ乳ばなれしていないライオンの孤児“エルザ”を、一人前に育てあげ、ふたたび大自然の中へ帰してあげる、というお話です。
ぼくは、これを読んで、たいへん感動しました。そして、この感動を、なんとかドラえもんの世界に再現できないものかと思いました。「のび太の恐竜」25ページは、こうして生まれた短編だったのです。(てんとう虫コミックス第10巻に収録)
それから何年かたって、ドラえもんはTVアニメとなり、さらに劇場公開用の長編映画を作ろうということになりました。しかし、あいにくそんな長い原作の用意はありません。そこで、短編の「のび太の恐竜」に後日談をつけ加え、一本のストーリーにまとめることになりました。
まず、シナリオを書いてシンエイ動画にわたし、一方ではコロコロコミックに雑誌連載するという、同時進行体制で作業が進められたのです。昭和五十四年の夏でした。
同時進行とはいっても、雑誌まんがとアニメでは、いろいろな点でちがいがあります。雑誌のほうは、ぎりぎり発売日の二週間ほど前まで締め切りを待ってもらえます。ところが、アニメは、大勢の人たちの集団作業なので、人物・背景の設定や絵コンテなど、最初に決定しておかねばなりません。どうしても、アニメのほうが雑誌よりも先行してしまうことになります。そんなこんなで、悪役の密猟者グループが、軍隊みたいな巨大組織になってしまったのは、予定外でした。今になって振り返ってみると、「ここは、もっとふくらましかった」とか、「こんなエピソードも入れたかった」とか、心残りはありますが、なんといっても記念すべき第一回長編アニメです。シリーズの中で最も愛着の深い作品といえば、この「のび太の恐竜」をあげることになるでしょう。
一九八九年一月十一日